緑は危険/クリスチアナ・ブランド

緑は危険
クリスチアナ・ブランド
2008/06/28

1. 著者紹介
 イギリスの女流本格作家で、アガサ・クリスティーやエラリー・クイーン、ディクスン・カーらに匹敵するほどの実力を持つ黄金期パズラーの代表作家の一人です。
 マレーシアのマラヤで生まれてインドで育ち、のちにイギリスに戻ってサマセット州トーントンの学校へ進学しますが、17歳の時に彼女の父親が破産してしまったため、また幼い頃に母親を亡くしていたために学業を諦めて働かざるを得なくなり、さまざまな職業に就いては苦労を重ねたといいます。
 やがて店員の仕事に落ち着くと創作活動に意欲を持ち始め、仕事の傍ら空いた時間を利用して執筆活動を開始。1939年に初めての短編が〈タトラー〉という雑誌に掲載されて作家としての第一歩を踏み出しますが、ほどなく職場で同僚からいじめを受けるという体験をしたため、復讐する代わりにその同僚を被害者に設定した殺人事件を題材にした推理小説を書くことを思い立ちます。
 このようにして書き上げられたのが、1941年に発表された彼女のデビュー長編「ハイヒールの死」でした。この処女長編はなかなか出版社に採用されませんでしたが、16社目にしてようやく出版されると、刊行されるやいなや大変な好評を博したといいます。
 その後は1944年に発表した第3長編「緑は危険」が映画化(日本でも「青の恐怖」という題名で公開)されるなど、順調に作品を発表し続け、本格ミステリ作家としての地位を確固たるものとしていきます。
 ブランドの作品中で数多く登場するシリーズ探偵は”ケントの恐怖”と呼ばれる名警部のコックリルですが、このキャラクターは彼女の敬愛する開業医の義父がそのモデルになっているそうです。

2. 登場人物
 文庫版の折り返し参照。

3. 本編
 ページ数は文庫版に準拠。多少拾い忘れたところもあるかもしれませんが、みんなの力で拾って下さい。
3.1 1章
p9 いきなりの伏線。ヒギンズの自転車の色が赤い、という話。
p10 イーデンの紹介。ここからしばらくは登場人物の紹介。
p11 ウッズの紹介。
p12 エスター・サンソンの紹介。母親との会話。ここだけやけに長いので、勘のいい読者なら……
p15 バーンズ博士とムーン少佐の紹介。
p17 エヴァンズという娘の死亡事故。手術中だった。
p18 フレデリカ・リンリーとシスター・ベーツの紹介。
p19 最後に殺人予告。

3.2 2章
p21 イーデンとベーツの関係。最近になってフレデリカも……
p22 バーンズとフレデリカの関係。エスターの母親が非業の死を遂げた件について。
p23 「新任の指揮官というものはその統治の第一歩としてなにかを塗り替えさせることに決まっている。」
p24 病院の形の説明。いつも思うんだけれど、ブランドの作品には見取り図があって欲しい。どこがどこやら……。
p27 ヒギンズのこと。担架に乗っていたのは「汚れた包帯のかたまり」。フレデリカは患者の顔を見ることができなかった。付き添いにはエスターが。
p28 動機について。
p29 このときの時刻は、夜十時。
p31 「体を洗ってやって下さい」
p36 十時過ぎにフレデリカとバーンズが、宿直室で会う。約束するとかしないとか。

3.3 3章
p48 エスターは昨夜、ウィリアムを見なかった。
p49 「別に、あんたのことなんて、好きじゃないんだからねっ!」
p51 ひどい夜。
p55 グリーンの手術衣と、グリーンのガーゼ。
p56 ミスディレクション。ウッズとヒギンズが過去に会ったというような印象を与えようとしている。
p59 なぜか体調の優れないエスター。
p61 ウッズが新しいボンベをセット。色は黒。
p63 「今のところ酸素しか注入していない」
p65 ヒギンズ、死亡。

3.4 4章
p66 白衣の胸に染み。ボンベを運んだときに付いた。
p68 バーンズが過去に犯したチョンボについて。またまたミスディレクション。
p70 コックリル登場。
p73 昨夜あまり寝なかったヒギンズ。モルヒネは?
p76 手術室の鍵の問題。
p81 「あの人の名前はだれも知らなかった」
p84 眠れなかったヒギンズ。
p86 フレデリカはヒギンズが郵便配達夫であることは知ってはいたが、肝心の名前は知らなかった。またその夜は一歩も宿直室から出ていないとのこと。他の人は誰も朝までヒギンズを見ていない。
p88 容疑者は絞られた。詳しくは、読めば分かります。
p90 グリーンの線が入っているのは、二酸化炭素。白線は酸素。黒色は一酸化炭素。
p92 ヒギンズの手術の時には、酸素は新規の筒を使った。
p97 二酸化炭素と酸素の筒は入れ替え可能。その場合、患者は死亡。
p99 その後、ボンベが使われ続けたかは不明。

3.5 5章
p102 なんと言うか滑稽な感じが……
p105 またバーンズの過去の事件。ヒギンズも知っていた。ミスディレクション。
p111 ムーン少佐の息子が、交通事故にあって死んだ話。相手も自転車。
p112 相手は誰だか分かっている。自転車の色が……。「その自転車は何色でしたの」ちょっとあからさまなミスディレクション。
p115 死亡フラグ。
p116 テンプレ通り。
p118 「あの女が彼を取ってしまう、わたし以外の誰かが彼を取ってしまう」犯人=彼?
p119 「そこかしこで眠れぬ男の……」
p120 お亡くなり。

3.6 6章
p126 2回突き刺されたベーツ。手術衣にぎざぎざの大きな穴。
p130 12時前にヒギンズが運ばれてきたことを知っていたのは、バーンズを除いた6人。
p131 ベーツ殺しのアリバイ探し。誰もアリバイなし。
p136 証拠はどこにある?
p137 ウッズはなぜ手術室へ行ったのか? ミスディレクション?
p139 ベーツはなぜ昼間の内に、コックリルに証拠を提出しなかったのか?
p142 ベーツの“信じられない”表情。
p143 最初の一突きで即死。その後、手術衣を着せてもう一突き。傷は小さい。
p145 よく分からんけど、多分ミスディレクション。
p150 ツン。
p154 ひとつの口実。どんな口実?
p162 ウッズに対する、フレディー殺害疑惑。
p168 ミスディレクション

3.7 7章
p172 二人の話題は専ら未来についてだった。
p179 イーデンの奇怪な行動。
p183 ウィリアムの過去。ヒギンズと一緒に警防団で働いていた。
p184 ドイツの放送。
p188 ウィリアムが言わなかったことと、ウッズの声をどこかで聞いたというウィリアム。

3.8 8章
p190 ペーソス=物悲しさ
p193 ウィリアムがヒギンズの部下であることを、エスターはここで初めて知る。
p195 「わたしはこわいの。ウィリアムも死んでしまうのだとしたら」
p199 差別用語、「くぅ~、きたきたきましたよっ」

3.9 9章
p206 ウィリアムの手術。「処刑の見物に来たんですか」
p207 コックリル、ウッズのボンベ運びを手伝う。
p215 手のひらの黒い染み。
p216 黒いペンキで二酸化炭素のボンベを塗ることにより、酸素のボンベと入れ替えていた。
p220 「フレデリカが襲われたのは、犯人が逮捕を恐れていたから」
p221 シスター・ベーツが手術室の戸棚に隠していたのは、ウッズの手術衣。
p224 死体に“証拠品”である手術衣を着せたのは、手術室から持ち去ることが出来なかったため。ぎざぎざの大きな穴は、突き刺した時ではなく黒ペンキのしみを切り取ったときにできたもの。
p226 犯人の自白待ち。

3.10 10章
p232 ヒギンズの到着が9時半頃。ボンベのペンキを塗り替えたのが、10時かそのちょっとあと。使われたペンキは大佐がゴミ箱を塗るのに使ったものの残り。
p240 ウッズの弟の話。ウィリアムとヒギンズが生き埋めになったとき、ラジオから流れていた。「この売国奴がっ!」
p243 シスターベーツが殺された夜に、ウッズが手術室へ行った理由。ベーツは、イーデンが犯人だと思っていた?
p245 ベーツが愕然とした表情をしていたのは、殺人犯がイーデンではないと分かったから。
p246 イーデンが朝、宿舎へ行った理由。
p253 モルヒネ消失事件。
p254 推理小説の話。おっとりした年寄りの紳士。
p255 バーンズが過去に殺してしまった娘は、実はヒギンズの親戚。ヒギンズが死んだ夜にイーデンは、彼を説得しようとしていた。

3.11 11章
p258 ウィリング氏が、嫌がる=unwilling
p267 ヒギンズが死んだときの再現。このあたりから、みんな怪しく見えてくる。
p273 コックリルが、ムーン少佐を糾弾し始める。
p274 「いかん。言っては駄目だ。言わないでくれ」。赤い自転車。
p276 払い落とされる注射器。それぞれの「よかった」。そして犯人の逮捕。このあたりの終盤のひっくり返しがブランドの魅力。

3.12 12章
解決篇。読めば分かります。そして、このブラックなオチ。

3.13 13章
後日談。そして、この何ともいえないオチ。

4. 妄想
 言いたいことはたくさんあれど、眠いのでさくっと箇条書きにて。
l ブランド作品の魅力は、何と言ってもミスディレクション、レッドヘリング、そしてそこから繰り出される終盤のどんでん返し。今回の作品でも、最後の最後になるまで誰が犯人なのかさっぱり分からぬ状況でした。
l また魅力たっぷりの登場人物たちが織り成す、様々な人間模様も見所の1つ。今回は、様々なカップルの様子が楽しめた。
l タイトルはそんなに秀逸だとは感じなかった。「いや、そんなもんだれでも気付くよっ」と言いたくなるね。タイトルだけなら「はなれわざ」。
l 今回の作品は書き方が曖昧な箇所が、多々あって、厳密に犯人を特定することができないような気がする。
l 「はなれわざ」が傑作と言われている一方で、「緑は危険」の評価が芳しくないのは、ミステリとしての焦点がぼやけていることにあるんじゃないだろうか。
 ま、あとはみんなの力で補ってください。眠い、(θωθ)おやすみ~☆

5. 著作紹介
 時系列に沿って並べています。(ハ:ハヤカワ文庫 ポ:ハヤカワポケミス 創:創元推理文庫 論:論創社 コ:コックリル警部 チ:チャールズワース警部)
 ハイヒールの死(1941 ハ、ポ、チ)
 切られた首(1941 ポ、コ)
 緑は危険(1944 ハ、ポ、コ)
 自宅にて急逝(1946 ハ、ポ、コ)
 ジェゼベルの死(1948 ハ、ポ、コ、チ)
 猫とねずみ(1950 ポ)
 疑惑の霧(1952 ポ、コ、チ)
 はなれわざ(1955 ハ、ポ、コ)
 ゆがんだ光輪(1957 ポ、コ)
 暗闇の薔薇(1979 創、チ)
 招かれざる客たちのビュッフェ(1983 創、コ)
 ぶち猫(2002 論、コ)

 オススメは、『ジェゼベルの死』と『はなれわざ』。『ジェゼベル』は短いながらも読みづらく、『はなれわざ』は長いけれども大変読みやすい。人によって評価は分かれるところですが、自分は『ジェゼベル』が最高傑作だと思っています。絶版なのが惜しまれますが、機会があればぜひ読んでいただきたい。



  • 最終更新:2011-03-24 23:00:24

このWIKIを編集するにはパスワード入力が必要です

認証パスワード